コードで考えるクラシックのレパートリー~A・ピアソラ タンゴの歴史よりCaffe1930~ 

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このブログも書き始めてからゆるゆると更新したりしなかったりして、2年目になりました。

ほう~そんなになるのかぁ、と思うと同時に何を書いたら誰かのためになるのかなぁと思い始めて、

ふと手が止まってしまったのでした。自分のためにもなって、誰かのためにもなるブログねぇ。。と、

そこで思いついたのが、兼ねてから考えてきたファゴットのソロのレパートリーを、自分なりに開拓したいなぁという夢でした。

その夢を少しでも叶えるため、そして少しでも誰かと共有するため、今までコンサートで取り上げたり、これから取り上げたいなと思っているレパートリー達をここで少し解説を交えて紹介したいと思います。

今回は、アストル・ピアソラの組曲タンゴの歴史からCaffe1930です。

まずはこちらをお聴きください。

Bram van Sambeekというオランダのファゴット奏者による演奏です。

素晴らしいですね!

オリジナルはフルートとギターの編成です。フルート奏者の方にはお馴染みかと思いますが、いろいろな楽器の編成で楽譜が出ています。僕はフルートの楽譜をオクターブ下げ一部2オクターブ下げて演奏しました。

因みにこちらの組曲はリエージュ国際ギターフェスティバルの委嘱作品だそうで、

ふむふむなるほど、これはあくまでデュオであって、ギターのパートが伴奏というスタンスではないことにも納得がいきますね。

もちろんピアノでもハープでもめちゃくちゃかっこいいです!


著作権の関係上、全曲の楽譜は載せられないのですが、僕がファゴット用に音を下げたパート譜のみをここに載せておきます。あくまで勉強のためにご活用くださいませ。小節数などが微妙に違う場合がありますが、照らし合わせてご覧ください。

是非こちらのオリジナルのスコアの譜面を購入して頂いて、ご活用下さい。

それでははじめから、全体のキィはEマイナーで構成はA-B-A’、BはEメジャーですね。

つい自分のパートに集中しすぎがちですが、相手のパートのコード進行や自分の演奏していない休みの間の構成を把握しておくことはとても大切です。

前奏14小節、小節数の構成としては4-4-6と捉えるのが良いのではないでしょうか。

それから、ぼくが使う用語についてですが、クラシック出身なのになんで英語、ジャズ表記で言うんだ?と不審に思われる方がいらっしゃるかと思いますが、単にそれは言いやすくて、わかりやすくて、何かと便利だからです。

音楽学校を卒業した後ほぼ自力でジャズの音楽理論を勉強した、ということもありますが、結果としてこれはほとんど、用語と目的が少し違うだけで、音楽学校で習ったことをただ復習した、ということになりました。おかげさまでケーデンス(カデンツ)の種類とスケールについての理解が深まったのと、こうして勉強してゆけばいいんだ、ということが解ったというのが大きな収穫でした。

な~んていうとかっこいいですが勉強することはまだまだ山ほどあるのです。

さてさて話がそれました。

それでは前奏のギターソロの14小節に取りかかりましょう。先ほど4-4-6小節に分けて考えると良いのでは、と書きましたね。

最初の4小節はEマイナーのキィで

Ⅰm(Em)/Ⅰm(Em)/Ⅳm(Am)/Ⅴ7(A7)

お馴染みⅠ-Ⅳ-Ⅴですね。

次の4小節がⅠm/Ⅰm/ⅥMaj7/Ⅶ7 

ⅥからⅦ7(D7)というナチュラルマイナー上にできるドミナント7を通って次の解決コードがGではなくBm7♭5に着地。(コードGはルートのG音を省略するとBmになるよ)その着地地点から6小節。

そこから一時的にAマイナーのキィに転調していると考えるとしっくりきます。ジャズっぽいⅡ-Ⅴ-Ⅰがあってディミニッシュ(減7)が続いて半音階でジリジリと詰めてきてフェルマータ、3連譜で降りてきてふわっと明るくなったと思ったら出番ですよっ!

なるべく強いアタックが出ないように始めたいですね。タンギングなんかしなくてもいいくらい。それから

リードのセッティングをこの出だしと、途中で出てくる16分音符で続く音形の中の第3オクターブのD音が綺麗に出るようにハイトーン寄りにしておくと良いかと思います。

すうっと音が出たらのびのびと吹きたいですね。さてここからは4小節4小節で8小節が2回と4小節が 3 回で12小節のフレーズが続きます。

ギターパートがアルペジオで、こちらは伸ばしているという時間が多いですが、ただ伸ばしていたのでは面白くありません。

例えば1小節目ですとEをずっと伸ばしている中でギターのパートがCの音になった時にⅣのコードが、またGの音になった時にはⅥのコードが動きの中で瞬間的に発生するように聴き取れます。 ですので、

ドミナントは持ってゆく、サブドミナントはキープ、トニックは収める。

という鉄則に従って息を入れてゆけば良いのです!

また、上手なギタリスト、ピアニスト、ハーピストはちゃんとそれぞれ1音ずつ音量を和音の機能に従って変えてきますので、そこでただ気持ちよく吹かせてもらうだけじゃなくてこちらもちゃんと理解した上で息の入れ方をコントロールしたいところです。

ここでは4小節目の1・2拍目をこの4小節フレーズの頂点に持ってくると良いかと思います。Eに息を一番入れて、D♯で収める。1小節でドミナントセブンスと捉えて良いと思います。椅音(アプローチノート?)は強拍でしたね。

ほとんどナチュラルマイナー(エオリアン)で降りてくるだけなのにう~んかっこいいんですよね。

次もシンプルなのにかっこいいフレーズ。(4小節)コードトーンを並べただけなのに、

EmMai7/CMaj7/AmMaj7/D♯dim 

Ⅰ-Ⅵ-Ⅳ-Ⅶ トニック→トニック→サブドミナント→ドミナントと緊張度を上げてゆきます。

8分音符と2分音符のバランスを気をつけたいですね。少しだけ後の2分音符にウエイトを(音量の、アクセントの)持ってきてあげると良いかと思います。どちらかだけが目立ってしまわないようにしたいですね。

次の8小節です。音形は出だしと同じ、と思いきや音価が微妙に違うことにお気づきかと思います。違いを意識して聴かせたいですね。前半は、(最初の2小節は)アルペジオをよく聴いて(コードはBm7♭5からBのディミニッシュ、Amと、小節をまたいで変化してますよ~)後半はベースのA音とメロディーのBナチュラルのぶつかりを聴かせたいですね、4小節目の2拍目の裏で聞こえるのですが、このAm+テンション9(B音 クラシック表記ですとHの音)、コードでジャンと鳴らした時のえも言われぬ絶望感、ぐさ~っと刺さるかんじを味わってください。

次の4小節は3小節目でGメジャーに解決していますので一瞬ですが少し明るいと言いますかのんびりした空気になりますね。とはいえまたディミニッシュ(減7)の沼に落ちてしまうのですが・・・

さて8小節終わりました。

次は小節数で31小節目から始まる12小節です。

出だし、このリズムは誰が聴いてもタンゴだ!と思うところだと思います。

コードはE m/Em/Am/Amと至ってシンプルですね、3小節目にハイトーンが出てきますが、あまり構えずに行きましょう。というのも、3、4拍目のギターパートは響いているだけなのでタイミングはこちらの自由になります。

このパターンでは、基本的に隣り合う二つの音が離れていれば離れているほど時間をとることと、音の強弱を使ってコード感をいかに出すか、の2点に留意して組み立てて行くと良いと思います。1小節目3拍のF♯(Emのテンション9)ぐさっと刺さるやつ、また来ましたね!強調したいところです。

2小節目の終わりハイトーンのDに向かう2音A、B(H)、のスタッカートは、跳ねるというより、息を入れ続けながらただ舌で止めて切るスタッカートです。2音の音程も3度離れていて時間を取っても不自然でなく、気持ち的にも息の圧的にも上がっているのでそのままスパッと舌を離せばDは出ます。

出なければリードが柔らかすぎる(曲に合っていない)ということになりますね。

さて、めでたくハイトーンがキマりましたら自然にするすると降りて参りましょう。

そして次からは切れ目なく8小節でワンフレーズにしたいところですね。

Incalzando( 追い立てるように、だんだん強くしながらだんだん速く) との表記があります。2小節目のF ♯,E,B ,F♯のところが難しいですね!

フルートでも難しいそうですよ。そしてファゴット的に一番の難関が、4小節目のハイDではないでしょうか。ここは息を弱めずに一気に行きたいですね、フィンガリングの思い切りの良さもポイントです。ここをフレーズの頂点と捉えると上手くいくかと思います。

初めは適度にゆっくりしたテンポでメトロノームをかけて練習したいです。

音が変わりにくいところはピックアップして練習します。

因みに3小節目はオクターブ下げました。前の小節の終わった音のBから始まるので自然です。

それから、切迫感は出したいのですがあまり、大きくすることと早くなることに意識を持って行きすぎない方が良いかと思います。

ファゴットは元々ダイナミクスのレンジが狭い上にフィンガリングも少々複雑ですから、音量や指の走りよりタンギングのニュアンスの種類を増やすことに命を燃やした方が良いと思うのです。ですので、ここも徐々に鋭くタンギングすることと、同じ音が連続した音形で速さを演出するのがよろしいかと思います。

それからコード感を持って(この音はRoot根音だ、これはテンションノートだ、これは7音だ、などと分かって)演奏することも大切です。というのも35小節目から数えて3小節目(37小節)はギターパートのコードはAmですが、全体的に聴くとGmに向かうドミナント7のD7です。そしてそのRootは管楽器パートが担っています。理解しておきたいポイントですね。

フレーズの方向性がより明確になりますし、事故も起こりにくくなります。

さて38小節目、早い動きの中でのhighD出てきました!

この曲の中でのテクニカルな最難関ですね!

この2小節(37-38)はひたすらDの音に絡みつくように演奏してみてはいかがでしょうか、37小節は先ほど申し上げた理由で、38小節はGsus4を強調する意味合いで。ついでにhighDも突出して聞こえてしまうこともなくなるのではないでしょうか。

ついでですが、そのhighDに上がる一つ前の音F♯ですがギターパートがAm7♭5を弾いていてその上でのF♯ですから瞬間的にディミニッシュをねじ込む形になりますね。ですので少し時間を取っても良いかもしれませんね。そこからGsus4に行ってⅢ度のGmに解決してディミニッシュ、ベースが半音階で下ってマイナー7♭5→ディミニッシュが連続して、ダブルドミナントのF♯7を通ってB7でフェルマータ。

そこから、できるだけきれいにフェイドアウトしたいところですね。

その次はたっぷりとブレスを取って小さいけれどはっきりアインザッツ!ぴったり合わせたいです。

構成として、全体がA-B-A’としたらAのコーダといったところでしょうか、ギターのパートも余白のある音形になっていますね。その分少しゆったりと切々と演奏したいです。後半は音が高くなっていますが決して力まず、出なかったらそれはそれでいい、くらいの気持ちで良いかもしれません。

(音はちゃんと出すんですけれど、あくまでも気持ちの上での話です。)

コツとしては、前半を気持ちにまかせて小さくしすぎないことです。

その後も儚く消え去りたいですね。この最後のフェルマータもきっちり最後まで伸ばすことに命を燃やすのではなく、終わり四分音符4つくらい手前で消えてしまって良いと思います。(ご覧のYouTubeの音源でも早めに切れています。)

さてさてA-B-A’のAが終わりました。

それではBに取りかかりましょう。

Eメジャーに転調します。シャープ4つ!

tristemente(悲しみに暮れて)とあります。

八分音符が連続するフレーズから始まります。

エモくてじわじわと痛みますよね。

ではこのエモさと痛みはどこから来るのでしょうか。

調性は明るいはずのメジャーです。

しかし、よーく見て、聴いていただくとこのフレーズ(70小節まで)中心になっている音はEではありませんね!

63小節目や70小節目を見ていただくとお解りいただけるかと思いますが、

G♯の音で終わっています。ということはこの一連のフレーズは長調(イオニア調)の3番目の音から始まるスケール(モード)のフリギア(Phrigian)調G♯Phrigianで出来ていると考えられます。

フリギア旋法とも呼ばれます。

このフリギア調というスケールはマイナーの響きが強いスケールで、ロドリーゴのアランフェス協奏曲の冒頭のフレーズなどがそうですね。スパニッシュな感じのスケールです。

それでは52小節目から、小節の構成ですが8小節-  4小節+インターバル2小節で6小節-  ギターソロを半分足して8小節と見立てました。

最初の8小節です。前半の4小節は8分音符で上行と下行を繰り返し、ギターパートはストロークです。シンプルですがとても味のあるフレーズですね。後半の4小節ではアッチェルランドとラレンタンドに挟まれています。

この8小節では我々の生き物としての柔軟性と言いますか、有機的な運動性を聴かせたいですね。

52小節から(#4つ)

E-G#m/C#m-E Maj7/A-E-F#m7-C#dim/

G#m7-C#7-G#m7/

次の4小節、56小節から

F #m /G#m/A#dim-D#aug/G#7-B7/

コード進行はEメジャーの体裁を保ちつつもトニックとしてのG#mをはじめ、随所にマイナーな響きのコードが組み込まれた仕組みになっていますね!

話しは少し変わりますが、

バロック音楽の奏法にイネガル奏法というものがあります。 inégalesすなわち均等ではないという意味です。ウィキによれば、記譜上では均等に書かれている2音の長さの一方を長く、一方を短く演奏する奏法とありますが、

特にこの前半の4小節などは、イネガル奏法の考え方を意識して取り入れてみても面白いかと思います。自然に吹いても絶対に全ての8分音符が均等に並ぶことはあり得ないのですが、どうして、その音は長く強調したいのか、または短めが自然なのか、考えながら練習すると、音楽づくりがより充実するのではないでしょうか。

さてさて次は60小節目からです。

装飾音符を前に出すのかオンザビートにするのか意見が分かれそうなところですが、ぼくは前に出しています、と言いますのもファゴットの第3オクターブのA←→B(H)やF#←→G#は特に、倍音の関係上あまり速く動かそうとすると音が濁ってしまいますので余裕を持たせる意味合いでも、前に出しています。

そのあと62小節,63小節はコードが目まぐるしく変わります。そしてフェルマータ。

|A-E-F#m7-Edim/Bdim-A-G#m7|

G#から始まるフリギア旋法を強く意識したいポイントです。

7連譜をしっかり聴いてからブレス!次の5連譜はゆったりと、そこからの

フリギア。

Eメジャーで考えてⅠ-Ⅳ-Ⅵ-Ⅱ(sus4)とサブドミナントが連続するので

少し時が止まったような浮遊感がありますね。うまくその空気感を出したいところです。そのようにして次の8小節に滑り込みます。その先の進行は前半と少し違いますがほぼ同じですね、この8小節後半は我々管楽器はお休みですが、ギターパートは続きますので、あまり終わり感を出しすぎないようにしたいですね。そのあとしばらくギターソロが続きます。テーマが出てきてC#7でアルペジオが聞こえたら再び出番です。

56小節目と同じフレーズです。前半より少しあっさりと演奏したいですね。

イネガル奏法も意識したいです。

そうして出だしのセクションAに戻ります。前半の40小節までと同じです。

さぁもうひと踏ん張り、余裕を見せたいところですね。

108小節からエンディングに入ります。息も絶え絶えに・・・

もうほとんどコードトーンしか吹いていません。息も絶え絶えですから。

|E♭m-Asus4/C#m-Gsus4/Bm-B♭m/B7/Em||

消え入るように終われたら最高です。

いかがでしたでしょうか。

こうしてコード進行やフレーズを調べたり整理することによって、楽曲の道筋や風景がより

明確に見えて来ます。

それから暗譜しようと思わなくとも、自然と曲が体に入ってくる感覚を

感じていただけるかと思います。

とても長い楽曲を暗譜して演奏する演奏家はきっとこうしたアプローチを繰り返しているのだと思います。

ぼくのはまだそのほんの入り口に過ぎませんが。

これは!?と思いながらもすくいきれていない部分がたくさん有りました。

しかしながら、それもまた勉強する一つの喜びですので、是非とも楽しんで参りましょう!

それではまた!

参考文献です。

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