窓辺を整理していたら懐かしいコースターが出てきた。
新宿東口を出て紀伊國屋書店の角を曲がって靖国通りに出る少し手前あたりにTopsHouseというビルがある。
現在もビルの名前としては残っているけれど、旧TopsHouseとは別物だ。
何だか村上春樹の小説に出てくる、”いるかホテル”みたいだ。
その8階にカフェ8ユイットはあった。
過去形だ。
残念ながら今はもう無い、閉店してしまっている。
エレベーターを8階で降りると、大きな花瓶にドライフラワーが飾られている落ち着いた照明のホールに出る。
新宿の街から一気にパリの屋根裏部屋に迷い込んだような感覚だ。
右に折れるとそこは小さなギャラリーになっていて、いつも何かしらのアートが展示されていた。
ギャラリーを過ぎると一気に空間がひらける。
天井の窓から柔らかい光が差し込んで、古い本が壁際に所狭しと積み上げられていて、それらは自由に読むこともできた。
壁にはアートのポスターやイベントのポスターなどもあり、アーティスティックな雰囲気だ。
ところどころにレトロな雰囲気の照明が置かれていて、夜はまた違った空気感を演出していた。
アップライトのピアノもあったと思う。
コンサートやイベントがあったのかどうか記憶には定かではない。
天井の窓にはじゃばら式の大きなブラインドが取り付けてあって
日差しによって明るさを調節することができたようだった。
どんな音楽がかかっていたかは忘れてしまったけれど、
確か、中央に円形のカウンターがあって一人でも落ち着いて本を読むことができた。
かみさんとまだ付き合っていた頃二人でもよく来た。
カフェオレを頼むとフランス式のカフェオレボウルにちょこんと取っ手が付いたような大きなマグカップになみなみと出てくる。
ドリップコーヒーを頼むとカップに1杯とポットが付いてきてたっぷり3杯分くらいはあった。
夜はビールも飲めた。
お客はゆっくりお喋りをしたり本を読んだり、しばし新宿の喧騒を忘れるのだった。
実家にあった古い漱石全集の中から一冊、確か”門”だったと思う、わざわざここに持ってきて一人で読んだ思い出もある。とにかく新宿のど真ん中とは思えない静かさとアートな空間なのだ。
最後の営業日となった日に、かみさんと二人でユイットにお別れに行った。
帰りに階下の出口に出ると、オーナーさんと思われる男性がお店で使っていたコースターと
小さなメッセージカードを渡してくれたことを覚えている。
カードはどこかへ行ってしまったけれど、
その時のコースターは今でも音楽部屋の窓辺に飾ってある。
記念のコースターはよごれて日に焼けてしまっているけれど、
(コースターはユイットだけのものではなく、旧トップスハウスのものでしたね。)
ユイットで過ごした暖かくて親密な時間の思い出は決して色褪せることなく、
今でも確実にぼくの体の一部となっているのだ。
良いカフェとはそういうものでなくてはならない、と勝手に思っている。
そういえばTopsHouseの一階にも別のカフェがあってそちらも好きだったことを思い出した。
一階の方はどちらかというとフォーマルなシーンにも似合うカフェだった、と思う。
ひとは記憶の中でもカフェ巡りができるのだ。
さぁ次はどこへ行こうか。
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