書くことと、物語りをつくること②

くじら文庫
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子供と一緒に図書館に行っていたかみさんの借りてきた本の中に、

おっとこれはこれは見つけてしまった!

小川糸さんの小説「ライオンのおやつ」

知ってはいたのだけれど、ホスピスを舞台にした作品ということもあり自分からは飛び付かなかったのだ。まあしかし目の前に置かれてしまっては読むしかない。ということで借りてきた当のかみさんが読む前に奪い取って半日くらいで読んでしまった。

やっぱり良いんだなぁ文章がきれいでリズムが心地よいのだ。

内容も舞台がホスピスということもありテーマは少し重めではあるけれど、語り口が一人称なので救われる。

音楽療法の事にもさらっと触れられているのが嬉しい。作中で週に一度行われているという”おやつの時間”、入居者が自分の思い出のおやつのストーリーを添えてリクエストする。選ばれたリクエストは全員の前で読まれ、そのおやつをみんなで食べてその時間を共有する。

これは、専門用語で言うところのナラティブアプローチではありませんか!

おそらくはライフレビュー、またはディグニティ(尊厳)セラピーと呼ばれるケアに分類されるものかと思うのだけれど。

人は死を目前にした時自分の尊厳というものが失われる、と感じる、のだそうだ。

それを一つの物語りという形にして他者、遺された人達に伝えることで尊厳が守られる、再認識されるのだそうだ。

ナラティブとは”物語り”とも訳される言葉で、人生を一つの物語りとして捉え、そこに焦点を当てる、アプローチすることそれ自体がケアになる、という考え方だ。

作中にはいちケア者としても、ものすごくためになる言葉が数多く散りばめられている。

(ナラティブアプローチについてはこちらの書籍もどうぞ。)

ところで、人間は死の恐怖には一瞬たりとも耐えることが出来ない、という言葉をどこかで耳にしたことがある。

ここで、病気自慢みたくなってしまうのだけれど、

ぼくが初めてその死の香りというか、死神の鼻息というか、そんなものをすぐそこに

感じた話しを少し、させていただきたい。

(ひとつのセラピーとして。)

年の瀬も押し迫った昨年の12月30日(今は2023年12月なので2022年12月30日)

その日ぼくは働いている介護施設の早番で朝の7時に出勤していた。朝ごはんに食べようと思っていたおにぎりも何だか食欲がなくて、夜勤明けの先輩(いつもぼくが夜勤明けの時何か買ってきてくれる)に譲ってしまった。

朝の業務は入居者さん達のバイタルを測って順番に起こしてゆくところから始まる。違和感は今思えばその時から始まっていた。いちばんお体の不自由な入居者さんの介助のとき、自分の右手と右足に力が入りづらいというか何だかいつもより重いなと感じたのだった。それでも気のせいだと思い、入居者さんの朝ごはんを配膳して、食後のお薬を配っていた時、薬の袋も開けられないくらい右手に力が入らなくなっていて、気持ち悪さと同時に痙攣が襲ってきた。

さすがに業務に支障が出てしまうので少し休ませてもらう事になり、出勤してきた看護師さんに血圧を測ってもらったら上が200あった。

その時はまだ心臓の病気(発作性心房細動)があったので脳梗塞が疑われ救急搬送となってしまったのだ。

病院に着いてMRIとCTの検査をしたところ、幸い脳梗塞にはなっていなかった。(一過性の脳虚血発作ということで。)しかしながら主治医の先生に告げられたのは今から24時間以内に今度は本格的な脳梗塞がやってくる可能性が極めて高いとの話しだった。その夜は何だか枕元に死神だか病気の神様がいて鼻息がかかるくらいの距離でじろじろと眺め回されているようで眠れなかった。

自然の摂理の前では自分が蚊ぐらいにちっぽけだった。

(まぁ元々そのくらいのものなのだろうけど。)

結局その後も脳梗塞にはならず、心臓も無事手術してのうのうと生きているわけだけれど、

今までよりは少しだけ、生きていることや今置かれている状況に感謝しようと思えるようになった。

それからもう一つ、やりたいことしかやらない!やりたくないことはやらない!と心に誓ったのだった。

死の恐怖を感じたことで自分が少しだけ生まれ変わったような気持ちになるのだ。

生まれることと死んでゆくことは背中合わせなのかもしれないと小川さんも仰っている。

産院とホスピスはどこか似た空気があると。

人の感じる感覚の一部には、どうしても物語りを通してでなくては伝えられないものがあると思うのだ。

何だかただの病気自慢になってしまった。

最後までお付き合いありがとうございました。

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