広い海を旅しながら歌を歌い、何千キロも離れた仲間や家族と交信するくじら。
そんなイメージに憧れを抱いていて、ぼくの移動式ワークスペースを密かに、
『くじらのアトリエ』と呼んでいる。
ノートとペン、あとはiPad でもあればじゅうぶん。
いくらでもイマジネーションを膨らませることができるはず。
息子が生まれたとき、ぼくもクリニックに泊まった。
適切に温度と湿度の設定された室内は。夜になるとしっとりとした静かさで、
つい先ほど生命の神秘を目の当たりにしたぼくには、そこがまるで
全ての命が生まれたと言われている海の底にいるように感じたのだった。
個室の壁に、親子で泳ぐ鯨の絵がかかっていて、
科学的根拠はさておき、親鯨が子守唄を歌いながらゆっくりと泳ぐ、
子鯨もそれを聴きながら安心して泳ぎ続ける、という画がずっと頭にあった。
後にそのイメージは、くじらの母さんの子守唄という歌と親子演劇ワークショップ
のシナリオになったのだけれど、当然ながら当時は練習どころではなかった。
なので、息子を抱っこしながら色々な歌を作っては歌ってあそんでいた。
書き残していない大部分は、もう忘れてしまっているけれど、
くじらの母さんの子守唄はイメージと共に深く刻まれている。
“くじらの母さんが海のなかでうたを歌っているよ
生まれたばかりのきみを抱いて
みてごらん、波の上に月がでたよ
きみがいつかおおきくおおきくなって
とおい海のむこうのむこうに行ったとしても
静かな夜に耳をすませば
そっと聞こえるように
ずっとずっとうたを歌っているよ
くじらの母さんが海のなかでうたを歌っているよ
夜の海は静かに揺れる
くじらの母さんの子守唄がきこえてくるよ”
ぼくもこの『くじらのアトリエ』からうたを歌い続けてゆきたい、と
そんな夢を抱いている。